・「であればよい」は、「is preferably」、「may be」、あるいは「is required to be」か

日本語の特許明細書で、「であればよい」という表現がしばしば登場します。

 

この「であればよい」は、「であることが望ましい」または「であって(も)よい」と解釈してそれぞれ「is preferably」、「may be」と訳出する場合が多いですが、筆者の経験では、「であることが求められる」の意味で使われている場合も多いと思います。また、単に「である」と記述するだけで済む場合もあるように思います。できれば明細書記載者の方には、「であればよい」は上記のいずれかの表現にしていただいた方がより正確な翻訳につながるかと思います。

 

例えば、「・・・コイルバネ(付勢手段)27が取り付けられる。コイルバネ27は第2案内部材24とユニットフレーム22とを互いに引き寄せる方向N1に付勢する引張りバネであればよく、このコイルバネ27によって、・・・」(特開2011-156696)の場合、「であればよく」は文脈的に「であることが求められる」を意図していると思います。したがって、「a coil spring 27 is required to be a tension spring …」のように訳出します。

 

「そのゴム硬度が、JIS(K7312)によるアスカーCで10~60の範囲内であり、且つ、温度20°Cにおける損失正接tanδが0.1以下であればよい。」(特開2009-229514)の場合も、この「損失正接tanδが0.1以下」は独立クレームに記載された数値であるため、「あればよい」は「であることが求められる」のように解釈すべきと思います。

 

一方、「例えば、よく知られた熱酸化法、もしくはプラズマ酸化法により、酸化シリコン層107が形成できる。酸化シリコン層107は、層厚5nm程度であればよい。」(特開2010-266731)の場合、「であればよい」は「であるのが望ましい」の意味で使われていると思います。

 

また、「・・・加熱手段33a,33bが形成される。加熱手段33a,33bは、例えば帯状の磁性体32A,32Cに重ねて形成されるヒータ線であればよい。」(特開2009-264981)は、「であればよい」は「であって(も)よい」の意味で使われていると思います。

 

 

 

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コメント: 2
  • #1

    城雲図・勉 (月曜日, 07 1月 2013 18:24)

    直訳といってしまえばそれまでですが、厳密に言うと「Xであれば良い」は文字通りに「Xであれば…」(つまり、Xであるという条件さえ満たされれば)「…良い」(つまり、納得のいく結果となる)という意味であると私は解釈してきました。そうすると「need only be X」または「the only requirement is that ... be X」になるのでは?これはpreferably, may be, is required to beのどれともニュアンスが違いますよね。確かに、「であればいい」と書く特許出願人は「であるのが好ましい」などという意図で書いている場合も多いのかもしれないし、翻訳者として前後関係から判断して「こういうニュアンスだろう」と想像することもありですが、それも翻訳の目的によりアプローチが異なってくるのではないでしょうか。例えば、他国で出願するための翻訳なら、意図しているところをピックアップし効果的に翻訳することが要求されますが、異議申し立てなどのために翻訳するのであればむしろ直訳、「文字通りにはこうしか書かれていない」と訳すのが適切ではないでしょうか?

  • #2

    tipsfrts (木曜日, 10 1月 2013 20:43)

    先日はコメントありがとうございました。反応が遅くなりすみません。コラムを書いたときに何故触れなかったかよく覚えていないのですが、私もご指摘と似たように考えていて、「であればよい」は「単に~であることが求められる」「~であればいかなる・・・であってもよい」という意味で使われている場合が最も多いと思っています。その場合、「is only required to」か「is simply required to」をあてています。最近は「may be any・・・ as long as ~」もよく使っています。ほとんどの和英辞典では、上記の意味での「あればよい」の訳語は出てこないと思います。恐らく特許翻訳の講座では、「あればよい」を「あるのが好ましい」や「であってもよい」と捉えて「preferably」「may」をあてるように教えている場合が多いと思います。コラムにも書きましたが、明細書の記載者の方には、「あればよい」という表現は、翻訳者が誤解する可能性があるので避けた方がいいと思っています。ご意見ありがとうございました。

このサイトでは、特許翻訳会社クオリティ翻訳の社長兼翻訳者坂井が、クレームや明細書の語句の訳し方について語っています。